キャリア・転職

【書籍レビュー】仕事選びのアートとサイエンス|キャリア選択に悩むすべての方に推したい一冊

こんにちは、たけもとです。

転職してうまくいかなかった、今の仕事に不満がある、社会人の経験を持った方は誰しもが、感じたことのある悩みではないでしょうか。私もその一人で、転職を複数回したものの、かなり満足した、という経験はめったにありませんでした。

そんなときに読んだ書籍「仕事選びのアートとサイエンス」(光文社文書)が大変すばらしい書籍でしたので、今回レビューします。

転職をするべきかどうか悩んでいる

キャリアの選び方について、情報が欲しい

自分が仕事に何を求めているのか、自分自身も整理しきれていない

上記のような、多くのキャリアの悩みの声に答えられる書籍です。少々長いレビューとなりますが、キャリアを深く考えたいすべての方にお勧めできる一冊ですので、よろしければ、ゆっくり、最後までご覧いただければ嬉しいです。

書籍概要

概要

著者について

著者は山口周氏。

現代社会の複雑性を解き明かす思想家であり、経営コンサルタントとして活躍されています。世に送り出した書籍はそれぞれ話題となり、特に「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?」は累計24万部を超えるベストセラーとなりました。

山口氏の著書は、ビジネスパーソンだけでなく幅広い読者層から支持されており、現代社会における生き方や働き方について深い洞察を提供しています。複雑化する社会の中で、どのように自分の人生を切り開いていくべきか、その答えを提示してくれる思想家と言えます。

書籍について

本書は、単なる転職のハウツーではなく、もっと深く自己のキャリアを見つめたい、キャリアというものをどう捉えればよいのか、と考えるすべての人々におすすめの一冊です。

現代社会においては、定年まで一社勤続という従来のシンプルな図式のキャリアではなく、より複雑で不確実なキャリアプランを考えることになります。従来の「好き」と「得意」を組み合わせるだけの仕事選びから脱して、どのように自分にとって最適な仕事を見つけるか、その手法・考え方を提示する一冊です。

「キャリア・アンカー」というキャリア選択のベースを据えながら、「天職は寝て待て」という視点から、仕事選びに対する読者の固定観念を打ち破ろうとしています。仕事は一生のものという考え方を改め、変化を恐れずに新しい挑戦を続けることの重要性を説いています。

総じて、転職などの判断をする前の、自身と向き合ってキャリアを考えるための本です。どのようなキャリアを選択するかの道筋について、大きなサポートをしてくれる一冊です。

メモ
この本を中心にキャリアをどう選択するか整理してから、転職等の具体的なハウツー本を読む、という流れが適切かと思います。

要点整理

要点

キャリア・アンカー

転職などのキャリアを考えるにあたり、「何を譲れないか」という視点で考えた価値観や欲求をキャリア・アンカーといい、下記の8つが取り上げられていました。

概要
①専門・職能コンピタンス自身の専門領域において、経験や才能をフルに活かすことに満足を感じるタイプ
②全般管理コンピタンス組織の中で出世して、経営者になることに充足感を感じるタイプ
③自律・独立自分のやり方やペースを守って仕事をするのが大切だと考えるタイプ
④保障・安定経済的な保障や経済的な自身の安定性を最優先に考えるタイプ
⑤起業家的創造性危険を顧みずに、会社や自身の事業を興すことに幸福感・充足感を感じるタイプ
⑥奉仕・社会貢献環境問題や貧困問題といった世の中を良くする課題の解決に価値を感じるタイプ
⑦純粋な挑戦解決が難しそうに見える問題に挑戦して解決・打ち勝つことを追求するタイプ
⑧生活様式公的な仕事の時間と、個人の時間の両方を大切にしたいと考えるタイプ

キャリアの選択において肝心なのは、その選択は本当に内発的な動機か、ということです。(キャリアに限らず、人生の様々な選択のシーンで重要だと思います。)

キャリア・アンカーが定まっていない・自分自身ではっきりと把握していなければ、外的な誘引(単に給与が高いだけ、等)に簡単に引っかかってしまい、自分にとって肝心な要素が叶えられず、結果転職等のキャリア選択に満足できない、といった問題が起こり得るといいます。

ざっと見て、ご自身がどのキャリアアンカーが強いか、イメージしてみてはいかがでしょうか。また、上記はあくまで概要となり、書籍内では、それぞれのキャリア・アンカーがどのような仕事・働き方を好むのか等にも言及されています。

キャリアは「いい偶然」により形成される

キャリア形成の80%は偶然から成り立つ

キャリア系の書籍などを読まれた方は、一度は目にしたことがあるであろうこの理論は、スタンフォード大学のグランボルツ氏により提唱され、多くの書籍等でその理論が用いられています。

ゆえに、長期的なキャリアをあらかじめ設計する力よりも、「良い偶然」を引き付けるための習慣と計画に努力を向けるべき、というのがグランボルツ氏の主張です。そして、「良い偶然」を引き付けるためのポイントとなる要素が、下記の5つになります。

「良い偶然」を引き付けるためのポイント
①好奇心:自身の専門領域以外にも、幅広い領域に関心を持つこと
②粘り強さ:最初はうまくいかなかったとしても、続けてみること
③柔軟性:一度自分で決めたことも、状況に応じて変化させること
④楽観性:意に沿わない環境も、自身の成長に繋がると捉えること
⑤リスクテイク:失敗するとしても、未知のものを試してみること

また、上記は良いキャリアを引きつける要素となりますが、引きつけた良い偶然逃さないようにすることも肝要で、本書では逃さないための考え方についても言及されていました。

自分が世界に何を求めるか、ではなく、世界は自分に何を求めているのか、という視点。求めるのではなく引き付ける、という視点がとても印象的です。

逃げの転職・転職後のズレ

転職を経験された方は、「こんな仕事環境だとは思わなかった」といった経験、一度はされたことはあるのではないでしょうか。私?ありますよ。

著者は、転職においては当初の期待と現実のずれ、リアリティ・ショックという現象が必ず起こりうるといいます。これは組織に対しても、仕事に対しても起こりうるものです。

では合わないと感じた際に、すぐに辞めるべきか、という問いには、まずはステイする立場を述べています。理由としては主に、このショックはいわば通過儀礼であり、そのギャップを経験して仕事を学習していくものだから。そして感情の下降は長い間続くものではないから、としています。

この感情の変化については、「平均への回帰」という語で言及されています。良いことと悪いことは相互に起きうるものであり、長い目でみれば、平均値に落ち着いていく、とする論です。仮に逃げたくなるような悪い状況が生じたとしても、それが自然と回復する可能性がある、ということですね。

これは転職後すぐ、についてだけでなく、転職前、今の環境が嫌でいわゆる「逃げの転職」を考えているシーンでも同じことが言えます。

もちろん心身・生命の危機が危惧される状況では逃げの選択をとるべきですが、やりたいことと何か違う、などのケースにおいては、一旦ステイして、経過を見るのが好ましい、というのが著者の考えであると言えます。

レビュー・感想

感じたこと・考えたこと

転職か今の仕事か、どちらが今の自分がとるべきか、と考える機会は多いですが、そのキャリアの判断に至るまでの適切な考え方の解説が、非常に具体的におさえられているところが、本書を読んで感動したポイントです。

哲学者の言葉や、キャリアに関する論文を引用する形で、キャリア選択に関する各トピックを説明しています。そのそれぞれに説得力があり納得できて、新たな視点にふれる喜びを感じていました。

私はちょうど30歳、複数回の転職を行ったタイミングでこの本を読みました。スキルを増やして、より多くのことができる環境に行き、給与を上げたい、というのが各転職において考えていたことでした。

そうした理屈での転職は一応実現できているのに、どこか満足できていないところがありました。本書を読んで改めて自分が大切にしたいことが何か、といったことに向き合うことができたと感じています。

印象的だった部分

印象的に感じたところを数点、具体的にピックアップします。

キャリア・アンカー

自分が何を譲れないのかという視点は、個人的にかなり蔑ろにしていたと思います。

自分が欲しいもののためには犠牲は付き物という考えが当然で、欲しいもの=会社員として働いて「得られるもの」ばかりにフォーカスを当てていたなと。満足度の高さを叶えるには、自分の性格や考え方に合ったキャリア選択をする必要があり、そのためにこのキャリア・アンカーを整理することに大きな価値があると感じました。

個人的には巷で話題の16タイプ性格診断等と組み合わせることで、お互いが結果に説得力が生みあい、より具体的に自分のタイプを深く理解できたのでおすすめです。

実際に、私は16診断はISTP、キャリア・アンカーは③自律・独立が強いと考えており、その内容が一致していました。
・ISTP:独立心が強く、自分のペースで物事を進めることを好む
・③自立・独立:自分のやり方やペースを守って仕事をするのが大切だと考えるタイプ

会社員かどうかもあくまでキャリア選択の一つの選択肢。会社員でなくてはならない、という枠を取り払って、自分の譲れないものをベースに、実現したいことを整理したいと思います。

自由であるために不自由を受け入れる

端的に言うと、嫌な仕事であっても、耐えて長年勤めることで、そこでスキル・キャリアが身に付き、より多くのことができるチャンスが生まれる、ということです。

状況が悪いときに転職するのは株価が下がったときに株を売却し、それで買い替えるようなものと言います。限られた一回などであればまだしも、それを繰り返すことは自身の価値の減少に繋がります。

実際に転職を数回してみた身としては、できる業務が広がったり、転職ごとの昇給は実現できた一方で、長期的な評価だったり、一つの会社内での昇進・昇給については、なかなか実現できなかったなと感じます。

補足
転職アンテナというサイトを運営されているmotoさんの書籍に書かれていた「軸ずらし転職」に、20代にとても感化されていました。この考え方をベースに会社員で転職していこうと思っていましたが、私の社会や業界についての理解が浅く、相応の成果が出せませんでした。
軸ずらし転職

とても納得のできる話で、かつ耳も痛くなる話でした。

一方で、会社員として働く中で、PCの操作スキル、文章作成・コミュニケーション等の能力が身に付いたこと、キャリアを常に考えて自己を向き合っていたことは、不自由の代償として得られたものになります。小さな自営業の家に生まれた身ですが、これらのスキル等とのかかわりは希薄で、会社員として働いたことで社会とつながるための術をしっかり学べたな、と思う要素です。20代~30代前半がこの「不自由を受け入れる」時期とのことで、これまでの経験から、今後のキャリアを組み立てていきたいものです。

無理をして仮面を被り続けること

以下、本の一節を引用します。

パーソナリティにフィットしていない組織に属したり仕事に就いたりして、一見うまく順応しているように働けたとしても、本当の「仕事の幸せ」は得られないのではないか、というのが私の考えです。(P125)

希望があって転職しているのにどこか満足できていない。。そんな自分の内面を言い当てられたような気がしました。表面的な欲求の実現でなく、より深い自分の内面に向き合って恐れずにキャリアの選択をしたいと思いました。

まとめ

以上、「仕事選びのアートとサイエンス」のレビューでした。

自分のユニークな強みや、大事にしたいポイントにまずは向き合い、それをもとに偶然のなかやってくるキャリアを掴んで積み重ねていく、というのが、大まかな論旨になります。そのキャリア選択におけるポイントが、様々な視点から、かつ非常に納得できるように説明されています。

長く手元に置いておき、この本に書かれているポイントをキャリアを考える際の指標の一つにしたいと思っています。

私は非常に刺さった一冊でした。非常におすすめです。

長いレビューになりましたが、最後までご覧いただき、ありがとうございました。

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